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2017/09/02

シリーズドイツ連邦議会総選挙2017 Part 1 - ドイツ連邦議会総選挙の投票の仕組みを勉強してみた!

北朝鮮情勢だけでなく、ドイツ政治情勢の行く末を見守っているタケオです。

2017年9月24日のドイツ連邦議会総選挙まで1ヶ月を切りました

今回はそもそもドイツ連邦議会がドイツ政治においてどのような役割を果たしているのか、そしてドイツ連邦議会総選挙の投票の仕組みについて見ていきたいと思います。

尚、僕はドイツ政治専門家というわけではありませんので、僕自身も勉強という意味で、主にドイツ語資料を参考にしながら紹介したいと思います。

目次
1. ドイツ連邦議会とは?
2. ドイツ連邦議会総選挙の概要
3. ドイツ連邦議会総選挙の選挙制度の詳細:小選挙区
4. ドイツ連邦議会総選挙の選挙制度の詳細:比例代表と「超過議席」
5. ドイツ連邦議会総選挙の選挙制度の詳細:比例代表と「調整議席」
6. ドイツ連邦議会総選挙の議席数配分算出の流れの総まとめ
7. 終わりに




ドイツ連邦議会とは?


ドイツ連邦議会 (Bundestag) は、ドイツ国籍保持者の直接投票によって選出された議員によって構成される議会のことです。

主な仕事としては憲法に相当するドイツ連邦共和国基本法 (Grundgesetz für die Bundesrepublik Deutschland、以下基本法) を基にした法律 (Gesetz) の制定及び改正となりますが、その他にも以下の業務及び特権等を持っているそうです。

1. 無記名投票による首相 (Bundeskanzlerin oder Bundeskanzler) 選出
(基本法第63条)

2. 首相に対する不信任決議案 (Misstrauensvotum) 採択
基本法第67条)

3. 連邦会議 (Bundesversammlung) における大統領(Bundespräsidentin oder Bundespräsident) 選出への参加
基本法第54条)

4. 国家予算 (Bundeshaushalt) 配分に関する議論及び予算案成立権
基本法第110条)

5. ドイツ連邦軍 (Bundeswehr) 国外への派兵の決定権
(議会関与法 (Parlamentsbeteiligungsgesetz


上記の3と5を除けば、日本の衆議院に相当するといっても言いでしょう。

因みに、国政レベルの議会としてもう一つドイツ連邦参議院 (Bundesrat) というのがあり、これはドイツを構成する16の連邦州及び自治市 (Bundesland) からそれぞれ派遣された代表者によって構成される議会なのですが、この代表者をドイツ国籍保持者が直接投票によって選ぶことは出来ません。

そのため、国政レベルでドイツ国籍保持者が投票に参加出来る機会はドイツ連邦議会総選挙のみとなります。


参考リンク
連邦議会の仕事|ドイツ連邦議会(ドイツ語)
ドイツ連邦共和国基本法|ドイツ法務及び消費者保護省(ドイツ語)
議会関与法|ドイツ法務及び消費者保護省(ドイツ語)



ドイツ連邦議会。
中央上部にある展望台は一般客も入ることが出来、人気の観光名所になっています。
因みに、僕はまだ入ったことがありません。。。


ドイツ連邦議会総選挙の概要


ドイツ連邦議会総選挙の概要については以下の通りです。

改選時期
4年毎
(基本法第39条)

選挙権 (Aktives Wahlrecht)
満18歳以上の、少なくとも3ヶ月以上ドイツに住所登録しているドイツ国籍保持者
※ドイツに住所登録のないドイツ国籍保持者は、満14歳になってから少なくとも3ヶ月切れ目なくドイツに住んでいたことがあり、その滞在が25年以上経っていない人に限り、選挙毎に申請の後投票可能
(基本法第38条・ドイツ連邦選挙法 (Bundeswahlgesetz、以下連邦選挙法) 第12条)

被選挙権 (Passives Wahlrecht)
満18歳以上の、少なくとも3ヶ月以上ドイツに住所登録しているドイツ国籍保持者
(基本法第38条・連邦選挙法第15条)


議員定数 (Sitze im Bundestag)
598
(連邦選挙法第1条)

選挙制度 (Wahlsystem)
小選挙区 (Wahlkreis) から299人、州別候補者名簿 (Landesliste) から299人の小選挙区・比例代表並立制
(連邦選挙法第1条)

ドイツ連邦議会にも解散制度があり、首相選出投票の際に候補者誰一人として過半数を超える投票数を獲得できなかったり、首相が自らの信任を連邦議会議員に問いかけて議員数の過半数が不信任に投票したりすることで、大統領が連邦議会に解散を命じて総選挙という流れになるそうです。(基本法第63条及び第67条

しかし、解散はこれまで西ドイツ時代の1982年とドイツ統一後の2005年の2回しか起こっていません。

日本との違いとしては、選挙権だけでなく、被選挙権も満18歳以上に与えられている点です。

つまり、18歳の連邦議会議員が誕生することも有り得るということです。

選挙制度については小選挙区・比例代表並立制と一見日本と同様に見えますが、比例代表選出時を中心に異なる点があるということで、後述します。


参考リンク
ドイツ連邦議会選挙権について|バーデン=ヴュルテンベルク州政治教育センター(ドイツ語)
在外ドイツ人の皆様へ|ドイツ連邦選挙管理委員会(ドイツ語)
過去のドイツ連邦議会解散の事例|ドイツ連邦政治教育センター(ドイツ語)
ドイツ連邦共和国基本法|ドイツ法務及び消費者保護省(ドイツ語)

ドイツ連邦選挙法|ドイツ法務及び消費者保護省(ドイツ語)



ドイツ連邦議会総選挙の選挙制度の詳細:小選挙区


ドイツ連邦議会総選挙での小選挙区はドイツ全土に299設置されてます。

それぞれの小選挙区で最も多くの得票数を獲得した候補者が議席の座を射止めることになるそうです。

この小選挙区の仕組みは日本の衆議院議員総選挙と同じですね。

尚、小選挙区に対する投票をドイツ語でErststimme(エアストシュティンメ、第一投票)と呼ぶそうです。


参考リンク
連邦議会総選挙の仕組みについて|バーデン=ヴュルテンベルク州政治教育センター(ドイツ語)
ドイツ連邦選挙法|ドイツ法務及び消費者保護省(ドイツ語)



ドイツ連邦議会総選挙の選挙制度の詳細:比例代表と「超過議席」


比例代表の議員はどのように選出されていくのでしょうか。

比例代表選出のための投票をZweitstimme(ツヴァイトシュティンメ、第二投票)と呼ぶそうですが、ドイツ連邦議会総選挙での比例代表選出方法は非常に複雑なものになっています。

まず、日本が政党名だけでなく名簿に載った候補者名も書くことが出来る、「非拘束名簿式」なのに対し、ドイツでは政党名のみ記載可能な「拘束名簿式」となっています。

政党が比例代表の候補者名簿を州別に作成するこということで、比例代表を選出する前提として、小選挙区選出分を含めたドイツ連邦議会全598議席を州別でどのように配分するのかを計算する必要があります。

その計算方法は以下の通りです。


州毎のドイツ国籍保持者人口(18歳未満も含む)÷ドイツ連邦議会1議席獲得に必要な得票数


ここでの「ドイツ連邦議会1議席獲得に必要な得票数」は、単純に598議席を全ドイツ国籍保持者で割って出しても良さそうなものです。

しかしそうして出た「得票数」を分母とし、州毎のドイツ国籍保持者人口を割って出た商を四捨五入して整数にしたものを合計してしまうと、ぴったり598とはならない場合があります。

そこでその合計をぴったり598にするために、実際にはサン=ラグ/シェーパース方式 (Verfahren Sainte-Lague/Schepers) というものを使って、統一されたドイツ連邦議会1議席獲得に必要な得票数を導き出すのですが、この方式の論理は非常に難しく、僕も完全に理解出来ていないので、この方式についての詳細な説明は省きます。

2013年に行われたドイツ連邦議会総選挙においては、州ごとに割り振られた議席数は以下の通りとなりました。


バーデン=ヴュルテンベルク州 (Baden-Württemberg) :76
バイエルン州 (Bayern) :92
ベルリン市 (Berlin) :24
ブランデンブルク州 (Brandenburg) :19
ブレーメン市 (Bremen) :5
ハンブルク市  (Hamburg) :13
ヘッセン州 (Hessen) :43
メクレンブルク=フォアポンメルン州 (Mecklenburg-Vorpommern) :13
ニーダーザクセン州 (Niedersachsen) :59
ノルトライン=ヴェストファレン州 (Nortrhein-Westfalen) :128
ラインラント=プファルツ州 (Rheinland-Pfalz) :30
ザールラント州 (Saarland) :7
ザクセン州 (Sachsen) :32
ザクセン=アンハルト州 (Sachsen-Anhalt) :18
シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州 (Schleswig-Holstein) :22
チューリンゲン州 (Thüringen) :17

合計:598


第二投票の得票率で全ドイツの5%以上獲得若しくは299の小選挙区の内3つの小選挙区でトップになった政党が議席配分の対象となります。(連邦選挙法第6条)

前回2013年ドイツ連邦議会総選挙では以下の5つの政党が議席配分の対象となりました。



同盟90/緑の党 (Bündnis 90/Die Grünen)
ドイツキリスト教民主同盟 (Christlich-Demokratische Union Deutschlands, CDU)
バイエルン・キリスト教社会同盟 (Christlich-Soziale Union in Bayern, CSU)
ドイツ社会民主党 (Sozialdemokiratische Partei Deutschlands, SPD)
左翼党 (Die LINKE)


その政党に対して、州毎に割り振られた議席数を維持しつつ、州内の政党別議席配分を行います。


政党別州内第二投票得票数÷州内1議席獲得に必要な得票数


ここでの「1議席獲得に必要な得票数」もサン=ラグ/シェーパース方式を用いて統一されたものを導き出します。


例として前回2013年ドイツ連邦議会総選挙のブランデンブルク州の例を見てみますと、州内全体議席数19に対する各政党の議席配分は以下の通りとなりました。


ドイツキリスト教民主同盟:8議席
ドイツ社会民主党:5議席
左翼党5議席
同盟90/緑の党: 1議席


ブランデンブルク州内には10の小選挙区があり、その内左翼党が1議席を獲得したため、残り4議席は州別候補者名簿に載っている候補者から順位の高い順に当選、ドイツ社会民主党と同盟90/緑の党は小選挙区で一人も勝てなかったため、全て州別候補者名簿からの当選となりました。

しかし、キリスト教民主同盟は小選挙区で何と9議席を獲得したため、名簿に載っている候補者からではなく全て小選挙区からの選出になることはおろか、小選挙区の時点で既に配分議席より1議席オーバーしてしまう事態になりました。

その時にはどうするのか、というと。

実はこの小選挙区でオーバーした分は、地元の声を直に反映させる意味で尊重すべきということで、割り振られた議席数に関係なく連邦議員として活動出来ることになります。

そのため、ドイツ連邦議会では連邦選挙法で定められている議員定数598よりも実際には多い議席数となるのが常のようです。

配分に対する小選挙区でのオーバー分の議席を「Überhangmandat(ウーバーハンクマンダート、超過議席)」と呼ぶそうです。


前回2013年のドイツ連邦議会総選挙では、ブランデンブルク州での1議席を含めた計4つの超過議席が発生したため、それと598とを合わせた602が、最低限保証されるドイツ連邦議会総議席数となり、州毎に割り振られた政党別議席数を16州分合計したものに、小選挙区でのオーバー分の議席を足したものが、ドイツ連邦議会全体において、各々の政党で最低限保証される議席数となりました。

2013年ドイツ連邦議会総選挙において、各々の政党で最低限保証される議席数は、議席獲得数の多い順に以下の通りでした。


ドイツキリスト教民主同盟:242議席
ドイツ社会民主党 : 183議席
同盟90/緑の党:61議席
左翼党:60議席
バイエルン・キリスト教社会同盟:56議席

合計:602議席


さて、「最低限保証される議席数」という言葉を使ったからには


議席数の計算はまだまだ続きます。。。


参考リンク
超過議席とは?|ドイツ連邦議会(ドイツ語)




ドイツ連邦議会総選挙の選挙制度の詳細:比例代表と「調整議席」


超過議席が加えられると、ドイツ全体で見た時の政党別得票率と釣り合わなくなる、ということで、次は以下の式にて、ドイツ全体での政党別第二投票得票数から見た時のドイツ連邦議会内政党別獲得議席数を計算していきます。


政党別全ドイツでの第二投票得票数÷ドイツ連邦議会全議席数の中で1議席獲得に必要な得票数


前回2013年総選挙においては、「ドイツ連邦議会全議席数の中で1議席獲得に必要な得票数」は「602議席の中で1議席獲得に必要な得票数」ということで、この数は総選挙毎に異なることになります。

ここで除数となる「ドイツ連邦議会全議席数の中で1議席獲得に必要な得票数」も、サン=ラグ/シェーパース方式を用いて統一されたものを導き出します。

ここで大事なことは、各々の政党で最低限保証される議席数を必ず下回らないようにする、ということです。

ドイツ連邦議会全議席数の中で1議席獲得に必要な得票数」は統一されたものを使用し、最低限保証される議席数も下回らないように議席数を算出する、ということは、

最終的なドイツ連邦議会総議席数は、連邦選挙法で規定されている議員定数598はおろか、各々の政党で最低限保証される議席数を全政党分合計したものをも自ずと上回るということになります。

前回2013年のドイツ連邦議会総選挙においては、「ドイツ連邦議会全議席数の中で1議席獲得に必要な得票数」が58,420と定められた中で、最終的な政党別議席数及びは総議席数は以下の通りとなりました。


キリスト教民主同盟:14,921,877÷58,420≒255議席
ドイツ社会民主党 : 11,252,215÷58,420193議席
左翼党:60議席:3,755,699÷58,420≒64議席
同盟90/緑の党:3,694,057÷58,420≒63議席
バイエルン・キリスト教社会同盟:3,243,569,÷58,42056議席


合計:631議席


何と、連邦選挙法での議員定数598より33議席も増加した631議席が、最終的なドイツ連邦議会の総議席数となってしまいました!

日本の衆議院議員総数が減っていっている中で、全くの逆をトレンドを行っています(苦笑)。

因みに、各々の政党で最低限保証される議席数から増加した分の議席のことを「Ausgleichsmandat (アウスグライヒスマンダート、調整議席)」 と呼ぶそうです。


そして以下の式にて各政党内での州別議席配分数が再度算出されることで、調整議席がどの州に配分されるかが決定されます。

そのため、調整議席は政党作成の州別候補者名簿に載っている候補者から選出されることになります。

政党別・州別第二投票数÷ドイツ連邦議会内政党別議席数1議席獲得に必要な得票数

ここで大事になるのは、各政党内での州別議席配分数の16州分合計が、ドイツ連邦議会総議席数から配分された最終的な政党別議席とぴったり合うようにする、ということです。

そこで、除数となる「ドイツ連邦議会内政党別議席数1議席獲得に必要な得票数」は、これまたサン=ラグ/シェーパース方式を用いて統一されたものを導き出します。

こうしてやっと、最終的総議席数及び候補者の選出が終了しました!

しかし、何ともややこしや。。。


参考リンク
議席算出方法について|バーデン=ヴュルテンベルク州政治教育センター(ドイツ語)
2013年ドイツ連邦議会総選挙結果資料3|ドイツ選挙管理委員会(ドイツ語)
調整議席とは?|ドイツ連邦議会(ドイツ語)



ドイツ連邦議会総選挙の議席配分算出の流れの総まとめ


結局長く書いてかなりややこしくなってしまいましたが、ドイツ連邦議会総選挙の議席数配分算出の流れを簡潔に整理すると以下のようになります。

1. 議員定数598内での州別議席配分数算出

2. 州内政党別議席配分数算出

3. 最低限保証されるドイツ連邦議会総議席数及び政党別議席数算出
州内政党別議席配分数からオーバーした小選挙区選出分、すなわち超過議席を考慮、一般的に議員定数598<最低限保証される総議席数)

4. 全ドイツでの政党別第二投票得票数から見た時のドイツ連邦議会内政党別獲得議席数算出、調整議席発生
(各々の政党で最低限保証される議席数を下回らないよう算出するため、最低限保証される総議席数<最終的総議席数となる

5. 最終的ドイツ連邦議会内政党別総議席数を維持する形で、各政党内での州別議席配分数再度算出
(調整議席の配分決定)



終わりに


如何でしたか。

議席数算出までに非常に長い道のりを要しますが、とにかくなるべく第二投票得票数の割合に近い形で議席配分をしようという意気込みは伝わってきました(苦笑)。

今回行われるドイツ連邦議会総選挙では、どの党が議席数第一党になるかだけでなく、総議員数が確定する過程にも注目して行きたいと思います。

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